人狼BBS:F国 F137村住人の作品集。

スポンサーサイト

...--/--/-- --:--...

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



スポンサー広告 | TRACKBACK(-) | COMMENT(-) |



えーと……いまさらですが(Y_Schnee)

...2006/08/20 01:09...

F137村SSのプロローグっぽいものをアップしてみました。

議論部分は大幅にはしょる可能性がありますが、基本的に続きます。
続きがアップされるのは私の気力と時間があったとき。

ていうかJEにログ落としてない状態でHTMLファイルだけで閲覧しながら書くと検索しきれてないので、口調とかまだ割と適当です。これは推敲時に修正する予定なので修正候補などあれば。

つーか、あっためてたネタは一応あったものの基本的に下書きノートを参照しないで一日で書いた(そして出来上がってない段階で推敲はしてない)ので、とりあえずアラはスルーしましょうw
でも修正希望の部分はがんがん言ってくださる方がいいんですが。
完成版はいつか村の全日程が終了した時点で改訂します、と。

……オチが読めるとかの突っ込みも却下だあっ!(笑)
↓ では行ってらっしゃいませ(長いよ) ↓



 ここは沈黙の村。人口わずか数十人の小さな村。
 だけど村人たちは皆とても仲が良くて賑やかで、まるで大きな家族みたい。でも本当に血の繋がっている人は、ほとんどいないんだって。それは何十年か昔に、人狼の災いに襲われて、村がほとんど壊滅してしまったから。
 そのことは、ここに住んでいる人たちの名前を見ればすぐに分かる。わたしが話せる言葉では書き表せないような、読みにくいような名前の人たちがたくさん集まっている。人狼の災いの後で生き延びたふたり、ヤコブおじいちゃんとリーザおばあちゃんが、各地を旅しながら人狼に襲われた人たちを集めて、ここにもう一度村を作ったからなんだって。
 ……わたしの名前はウェンディ。リックと双子のウェンディ。
 羊飼いさんのような赤頭巾を被って、毎日村外れのリーザおばあちゃんを訪ねて行くの。

「ウェンディ、リーザおばあちゃんにこれを届けてあげてちょうだい。グレンさんの鳩茄子みっつと、ミートパイにアップルパイが二切れずつ。着いたら一緒に食べてもいいけれど、途中で食べちゃだめよ?」
「はあい」
 まったく、お母さんはいつもうるさいの。
 つまみ食いをすることなんてほとんどないし、そんなことするとしたらリックの方じゃないかしら。
 わたしはそう思いながら今日も赤い頭巾を被って、重たい籠を持ち上げる。持ち歩かせるならもう少し軽いお皿に入れてくれればいいのに、って思うけど、昔からリーザおばあちゃんが使ってるお皿だって言われたら、大事にするしかないのかも。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
 お母さんの声に背中を押されながら、男の子たちが遊んでいる川のほとりを抜けて、私は森に入っていく。
 どんなにお花が綺麗でも、途中では摘まないの。リーザおばあちゃんのお庭は、森のお花畑よりたくさんお花が咲いているから。どんなに野いちごがおいしそうでも途中では摘まないの、籠に蟻さんが来てしまったことがあるから。
 ちょっと歩くとリーザおばあちゃんのおうちに辿り着く。「繕い物致します」って古い看板が、少し傾いてる。ドアの紐を引っ張ってベルを鳴らすと、リーザおばあちゃんの声がした。
「……ウェンディかい? おばあちゃんは今忙しいから、届け物はそこに置いて帰っておくれ」
 少し、声が遠い。居間にいるんじゃないみたい。ドアを開けたらやっぱり、そこにリーザおばあちゃんの姿はなかった。
「わかったわ、テーブルの上でいい?」
「見えるところならどこでも構わないよ。さあ早く」
 わたしは居間のテーブルに籠を置こうとする。……テーブルクロスがずれている。几帳面なリーザおばあちゃんとも思えない、珍しい光景。
 テーブルクロスを直して籠を置いたら、向こう側に何かの本が落ちちゃった。拾いに行くとその表紙には、何の題名も書かれていない。
「リーザおばあちゃん、この本なあに?」
「……本?」
「開けてもいーい?」
 わたしは返事を待たずに本を開いた。
 そこに記されていたのは綺麗な手書きの文字で綴られた、日記のようなもの。――リーザおばあちゃんの若い頃の、日記?
『私が七歳の年、九の月二十七日――人狼の噂が流れた』
 ……あの人狼騒ぎの、手記?
「――まさか。ウェンディ、その本は私の大事なものだから、読まずに早くおうちにお帰り。お願いだから」
 私はリーザおばあちゃんの制止の言葉を聞かず、ページをめくり始めた。

   *   *   *

 私が七歳の年、九の月二十七日のことだった。人狼の噂が、村々に流れ始めたのは。
 正直に言って、あの頃のことは今でもまだ夢に見るほどだ。仲が良いと信じていた村の人たちがお互いに疑い合い、処刑という残酷な手段で殺し合った。とても辛かったし、何度かは本当に命の危険も感じた――けれど、私はあの事件のことを忘れてはいけないと思う。あの頃も日記はつけていたけれど、恐怖のあまりか単に字が下手だったのか、ところどころ読めないところもあるし、やっぱりまだ七歳だったからだろう、文章が下手くそで何を書きたかったのかわからないところがある。やっと今になって、きちんと記録に残そう、書き直そうと思えたのは、多分、私があの頃のことを少しでも消化できてきたということなのかもしれない。或いは、まだ旅の途上にいて、あの村から遠く離れているから、だろうか。
 これから記すことは、私があの後できる限りの情報を集めて、できる限り客観的に書こうと努めたあの事件の記憶。事件の後でペーターくんのお墓にいつの間にか挟まっていた数枚の紙片、それと皆が遺したあらゆる文書を――どうしても始末することができなくて、馬鹿みたいに重いのに持ち歩いていたものを――読みこなして、ジェフリーくんから話を聞いたり人狼についても細かく調べたりして、可能な限り細かく記そうとした、記憶。
 どうか、あの人たちの生きたことが、消えてしまいませんように。
 この記録が役に立つ日なんて来ない方がいいけれど、一時のつもりだとは言え土地を離れてしまった私にとって、これが多分手向けられる唯一のものだから。
 ――どうか安らかに。

   +   +   +

 聖空領邦暦一三七年九月二十七日。北部の村々に、人狼の噂が流れ始めた。
 北にそびえる氷嶺山脈と、三方を阻む静かの森の狭間。小さく開けた土地にある沈黙の村にも、その噂は他とほぼ同時に、特産の鳩茄子によってもたらされた。生物学上は明らかに茄子でしかないその植物は、土地に満ちた魔力を受けて伝書鳩のように働きうるという、至極特殊な特性を持つ。
 早朝、役場でそれを受け取った事務員のパメラと、選挙のことしか頭にない村長ヴァルターが顔を見合わせたそのちょうど同じ頃、村の南方、森の中の細い道を越えた向こうで、ひとりの旅人が川を渡ろうとしていた。
 小舟に座る彼の姿は緑色の旅装。背中には茶色い頭陀袋。伏せられた目の色は暗い紅、帽子から僅かに零れ落ちる髪は銀色で、彼自身は異形ではあれ、排斥されるほどでもない容姿をしていた。
 だがその船を操る船頭が――異様だ。
 精々、座る旅人の腕一本と同じくらいの身の丈しかない人形。腹話術に用いられるものと見えて、背中から見れば少しからくりが覗いている。可愛らしい顔の中の丸い目はしかし、冷たく暗い喜びを宿して行く先を眺め、支えもなしに自ら立って舟を対岸へと導いていた。
 櫂を握るその手に、僅かに滴るのはまだ乾きもしない血痕。たった今、船を守ろうとした船頭を鋭利なナイフで切り裂き殺した、その痕跡。
 ……やがて舟が対岸に辿り着くと、旅人は人形を抱えて、億劫そうに岸へと上がった。
 森の名は静かの森、村の名は沈黙の村。かつて、そしてこれから、惨劇に染まる場所。

 村は木苺と野苺の季節である。太陽が天頂に達する頃、村の真ん中の丘の上では少年ペーターと少女リーザが苺摘みに奔走していた。農作業に慣れた大人たちは、村の特産である鳩茄子の収穫や、冬に向けての飼い葉作りなどに忙しい。だから苺摘みは子供たちの役割だった。
 森の小道を抜けてきた旅人が通りかかるのに気づき、ペーターは苺の藪からウサギのように頭を上げた。
「珍しいよ、旅人さんだよ。こんにちはだよ」
 旅人が軽く会釈をしかけたところで、ペーターの後ろからリーザが顔を出す。この年頃の子供にはありがちなことで、背丈自体は少しリーザの方が大きいようではある。だが聡明さや積極性で言うなら、リーザの手を引いて旅人の前に走り出たペーターの方がだいぶ上回っていそうだった。
 旅人はひょいと片手を上げる。その手にはいつの間にか腹話術用の人形がある。
「『やぁ、良い子のみんな! 元気してたカナ? 僕チャーリー、こっちの無口なのはニコラス兄ちゃんだヨ! 僕たちお友達なんダ♪』」
 物静かな表情の旅人ニコラスの前で、明るく元気に喋る腹話術人形チャーリーを見て、子供たちは少なからず驚いたようだった。
「すごいの、お人形さんが喋ったのー」
「すごいよ、ニコラスさん上手だよー」
 ……驚き方には、若干温度差があるようではあったが。
 チャーリーは少し首を傾げて、ペーターの額を軽くつっつくような仕草を見せた。
「『ニコラス兄ちゃんガ上手なんじゃないノ!僕は僕だヨ!チャーリーだヨ!』」
「あう、チャーリーさんごめんだよー」
 ペーターは笑いながら謝って、村の中心のほうを指差す。
「チャーリーさんとニコラスさんは旅芸人の人なのかな?向こうにお役所があるよ。お役所ってほど大きくもないけど、村長さんとパメラさんがいるからご挨拶しておくといいよー」
「『そうなんダ。じゃあ案内してくれるカナ? えっと』」
「僕はペーターだよー。こっちの女の子はリーザちゃん。苺の籠持ってくるから少し待っててだよー」
 ペーターは素早く荷物をまとめ、リーザの手を引いて先頭に立った。リーザはチャーリーのことが何か気になるようで、手を引かれながら後ろを向いてしげしげと眺めている。彼女の注視に応えるように、チャーリーはおどけた仕草をして見せた。
 緩やかにカーブした道を辿って、三人と一体は村の中心へと進んでいく。役場のドアを開けると、旅人のそれよりも濃い緑で身を固めた行商人が、カウンター部分から振り返って頭を下げた。
「ペーターさんリーザさん、こんにちは」
 その言葉で訪問者に気づいたか、行商人の後ろ――というか、正面にいた凛々しい顔立ちの若い娘が、書類から顔を上げる。
「ああ、ペーターにリーザか。苺摘みは終わったのか?」
「アルビンさんパメラさんこんにちはだよー。苺はぼちぼちだよー」
「こんにちはなのー」
 ペーターとリーザが挨拶をし、旅人と人形を室内に導き入れる。
「村長さんはいないみたい? パメラさん、こちら旅芸人のニコラスさんとチャーリーさんだよー」
「……旅芸人?」
 ほのかに目つきを険しくしたパメラに視線を合わせるように、チャーリーを少し高く掲げて、ニコラスは一歩前に進み出た。
「『こんにちハ、パメラさん! 僕チャーリーだヨ!』」
 しかし言うことは変わらない。
 少し呆れたような表情で眺めたパメラは書類を一枚取り出し、「ここにサインを」と指を差しつつ突き出した。チャーリーの小さな手が羽根ペンを取り、不器用に角ばった文字で「チャーリー」と記す。パメラはもう一度首を傾げ、果たしてこれでいいのだろうかと言わんばかりにチャーリーを見つめたが、訂正する様子がないためか諦めて判を押した。
「営業許可だ。……できれば村長にも顔を通しておいて欲しいが、まあ会えなくとも問題はないな」
「『アリガト、パメラさん♪』」
 チャーリーの手がそれを拾い上げ、くるくる丸めて脇に抱え込む。だがその瞬間にニコラスがびくりと身を引いたので、丸めかけた書類はチャーリーの手を離れて宙を舞った。
「『……いきなり何サ、ニコラス兄ちゃん?』」
「……あれ? にぃ君……?」
 感心したようにチャーリーに見とれていたアルビンの肩辺りから、いつの間にか小さな黒猫が滑り降り、ニコラスの足元に爪を立てていた。頑丈な旅行用の靴に僅かながら爪痕がついているのを見、アルビンが慌てて黒猫を抱き上げる。
「ごめんなさい……にぃ君がこんなことをすることは、ほとんどないんですけど。靴、大丈夫ですか?」
「『大丈夫だヨ! 猫チャンのしたことで僕もニコラス兄ちゃんも怒ったりしないヨ!』」
 黒猫を撫でようと人形が手を伸ばすと、しかし黒猫は相変わらずの勢いで右の爪を振るった。素早い動作で飛びのいたチャーリーはどことなく肩を落とした様子で書類を拾い上げる。
「『ご機嫌損ねちゃっタみたい……』」
「あ、いえいえいえ。もう、にぃ君、駄目でしょ?」
 なお慌てて黒猫と顔を見合わせるアルビンを見て、パメラが少し表情を緩めた。
「あー、旅人殿。多分村長は酒場にいると思うのでな、行ってみて欲しい。私と行商人殿も間もなく向かう予定だが……実は、人狼の噂が流れているのでな。村人に召集を掛けたところなのだ」
「『人狼……? 怖いネ……。わかったヨ、じゃあ僕行ってみるネ!』」
 チャーリーが元気に応えた横で、
「人狼……」
「……人狼、ですか」
 ペーターは腕を組んでなにやら考え込み、アルビンは哀しげに眉を寄せる。一人リーザだけが事の深刻さをさっぱり理解しないように首を傾げていた。幼い時に父母を亡くし、遠方から旅してきた宿屋の女将に預かられてのんきに奔放に育った彼女は、普通なら親兄弟から伝えられているはずの人狼についての昔話にどうにも疎いらしかった。同じく父母のいないペーターは、自ら伝承に詳しい老人に聞くなどして知識をつけているようだったが。
「ペーターとリーザも、できれば旅人殿と一緒に酒場に向かってくれ。苺も持っていかなくてはならないだろうしな」
「うん、わかったよ。パメラさんはどうするの?」
「私は……行商人殿ともう少し、商談を詰めなければならないのでな。少ししたら行くと伝えてくれ」
「わかったのー」
 三人がドアを開けて出て行ったのを見て、アルビンの手の中で暴れていた黒猫がようやく鎮まる。どうしたんでしょうね、と呟きながらアルビンはその艶やかな毛並みを撫でた。
「旅人殿からは少しだが獣の匂いがしていたからな。……多分、背嚢の中身だろうが」
「へえ、そうだったんですか。パメラさんは鼻がいいんですね」
 言われたパメラは少しぎょっとしたような表情をして、書類を卓の上に置いた。
「うん? ああ、まあ、少し……な。……ところでこの型式の話なんだが、もう少し値が下がらないか? 村長の選挙運動でかなり予算がかつかつなのだが……」
「うーん、僕も下っ端ですので……このぐらい……いやこのぐらいまでなら……?」
 算盤を弾きながら顔を突き合わせて、二人は商談に没頭していった。

 その時間、既に宿屋の一階にある酒場にいたのは六人の男女だった。かつては旅してきた宿泊客だったが、いつの間にか宿屋と酒場の女将になっていたレジーナ。その目の前のカウンターで酒を呷っている、頬に傷のある男ディーター。酒場の隅のテーブルに伏し、ほとんど減っていない酒のグラスを握ったまま幸せそうに眠っているのはゲルトで、睡眠学習と称してその耳元で「清き一票ぉぉぉぉ」と囁きかけているのが村長のヴァルターである。戒律で飲酒を禁じられた神父ジムゾンはカウンターの隅で氷嶺山脈の湧水とパンを食し、学生である青年ヨアヒムはゲルトの向かいで、なにやら忙しそうに課題をやっていた。
 女将が料理を苦手とし、誰も料理をする気がない酒場の割にはまともな料理が出てくるのは、ほとんど村の七不思議のひとつと言ってもいい。実際にはパメラやカタリナ、時にはヤコブが暇を見て料理をしているという噂だが。
「……人狼デスカ」
 グラスを磨きながらレジーナが呟く。
「どうした?レジーナ。怖いのか?」
 からかうような笑みを浮かべてディーターが問うた。レジーナは応えるように不敵に笑って、首を左右に振る。
「イイエ? ザンクトルフト邦の人狼、噂で有名デス。一度見てみたいと思ってマシタ」
「ははっ、『一度見てみたい』か。観光気分だな」
「何しろワタシ、元々滞在客デスし」
 レジーナは苦笑してみせた。当人ですら何故、いつの間に、女将の職を任されていたのかを理解していないらしい。元の酒場の主人はかなり前に、メイドになる修行がどうとか口走ってどこかへ出奔したのだが、流石にどこかで行き倒れたのだろうと、彼を知るほとんど全員が思っている。
(……一度見てみたい、ね。呑気なもんだぜ、この女将は)
 何気なく笑い話にしながら、ディーターは心の中で舌を出した。そして、人の耳には聞こえるはずのない音で、『囁く』。
『雲? 聞こえてるか』
 遠くへと届くその声がいったいどういう原理に基づくものなのかディーターは知らない。ただ、人狼同士がその声で意思疎通をできるということだけは、幼い頃からの経験が確かに教えていた。遠く離れた国では、人狼に魅せられた人間までもがその声で囁くことができるというが、それについては噂に聞いただけだった。
 素直な声が、応える。幼い頃から変わらないままの、柔らかなパメラの『声』。
『……あ、赤。聞こえてますよー。今、旅人さんがそっちに向かってます。……狼の匂いはするのに、人狼には見えないけれど』
 二人は、たとえうっかりささやきを口に出したとしても互いに互いの名を知られないために、互いに特別の呼び名をつけていた。
『……元々変な気配だったしな。まあ、《歌った》んだったら、人狼だろうが――』
『……それは、一応確認済み。私ももうすぐそっち行きますね、赤』
『おう』
 ディーターは琥珀色の酒を呷った。
「……お代わり。公費で」
「公費……じゃないデスけど、まあいいデス」
『って、公費はだめですよ赤ー!』
 レジーナの苦笑と同時に、聴覚の鋭いパメラがささやきで突っ込んでくるのを聞き流しつつ、ディーターは振り返った。
「構わねぇよな? 村長。次の選挙もちゃんと票入れるから」
「うむ、構わん。レジーナ、私にも酒を。カロリーのあまり高くない奴をな、健康は大事だ」
『村長までーっ! 構わなくないでしょーっ!!?』
『……早く来い、雲……?』
 にやにや笑いながらディーターはヴァルターと盃を交わした。選挙は厳しい冬を越した後の春に、慣習として例年行なわれる。こんな小さな村の村長に誰もわざわざ立候補などしないのだから、票集めなど滅多なことでは必要ないのに、この村長はやたらとそこにこだわる。
 ――仲間が三人揃ったのなら、次の選挙の日を待たずにこの村は壊滅させてやるのに。
 後ろのテーブルで、ゲルトが引っ繰り返した酒の洪水に襲われて、ヨアヒムが「うわ」と声を上げて立ち上がった。
「ゲールートー! 何てことをー!」
「……うー、何だよ、ヨアヒムは大げさだなあ……」
「大げさじゃないよっ! ほら見てこれー、僕の課題がー」
 広げた紙の上にはインクが見事な紋様を描いている。もはや乾かしても文字の判読は不可能だろう。
「……まあ勘弁してやれ、ヨアヒム。他にも机は空いてんだろ?」
「だってこれから村のみんなが集まってくるじゃないか。人数分はテーブルないし、他の誰かと一緒になったよりはゲルトの方が静かに課題もできるさっ」
 毎日のように酒場に来ても寝ているばかりのゲルト相手ならば、確かに勉強も捗るだろう――何故彼が酒場で寝てばかりなのか、単に酒に弱いのか生活習慣がおかしいのかは誰も知らないのだが、ゲルト宅にたまに夜遅くまで明かりがついているのをトーマスが目撃することもあるという。だが基本的には親の遺産で暮らしている楽天的な男なのだと、村の全員が了解していた――。だが、傾いて持たれた酒のグラスのすぐ横で無防備にノートを広げるのは、あまり安全な話ではないのも確かだ。
「なら諦めろって。レジーナ、布巾」
「ハイ」
「ほらよ、ヨアヒム」
「ちょっ、投げないでよディーター」
 布巾を受け取ったヨアヒムが左手でテーブルを不器用そうに拭いている。右手はもう絶望的な状態になったノートを持ち上げて避けていた。
 のどかな光景だ。
 だがこののどかな光景も、今夜で終わる。
 ディーターは喉の奥、囁く時に震わす部分を僅かに鳴らして、ひっそりと笑った。

 日ももうだいぶ傾きかけた頃、鳩茄子畑のど真ん中。朝から今までの間に熟した、成長の早い鳩茄子を収穫してちょうど身を起こしたところに、背後から声を掛けられた。
「ヤコブ、鳩茄子の収穫お疲れさんやね」
 いつもこの時間にこの辺りを通りかかるカタリナの声だ。ヤコブは振り返って、彼女に手を振った。
「あぁ、カタリナか。今年は豊作だし生きがいいよ、よく売れそうだ。飼い葉の方は?」
「ちょっとうち一人じゃ大変やね。頑張ってはいるけど……皆が一冬越せるほどは、まだ集まってへんかなぁ」
 カタリナは村で唯一の羊飼いだ。日頃よく左右に連れているカーターとリナの他、数頭の羊を一人で飼っている。八年ほど前には隣村と行き来していた羊飼いの女性がいて、それがカタリナの師匠だったのだが、彼女がかつて隣村の人狼事件で亡くなって以来は、この近辺ではカタリナだけが羊飼いの職についていた。……出荷するほどの名産品でもないから、村の中で食糧がまかなえ、村の中に羊毛を供給できればそれだけでいいのではあるが、少し寂しい話だとヤコブは思う。
「そうか。……俺の方も今年は鳩茄子の育ちがよくてなかなか手が空かないんだ。手伝いに行ってやれなくて、御免な」
「構わへんよー? 元々うちの仕事やし」
 鳩茄子畑に分け入って、カタリナは熟れた鳩茄子を探し出す。今日は左右の羊を連れてはいないのか、とヤコブは思う。時には連れたまま村の中を歩いていることもあるのだが。
「これええなあ。ひとつ貰ってええ?」
 好みの姿かたちの熟した鳩茄子を見つけ、カタリナが明るく微笑む。鳩茄子は鳩に似た形をした茄子の一種だが、その姿はまだらの模様が入ったもの、熟したときの色が普通と異なるものなど様々で、本当にその鳩茄子が熟しているかどうかはよほど見慣れた人間でないと見分けられない代物だった。カタリナの鳩茄子の様子を見て、ヤコブはそれなら大丈夫、と頷いた。
「ああ、構わないけど」
「ほんま? 嬉しいわぁ。ヤコブの畑の鳩茄子は天下一品や。……ところで、お師匠さん見ぃひんかった?」
「……」
 続いたカタリナの問いに、ヤコブは一瞬沈黙した。
「いや、見てない。今日は酒場で会議があるから、そこで聞いてみるといいんじゃないかな。俺もすぐに行くよ、遅れたら御免って伝えておいてくれないか」
「わかったわー。ほな先行くねー」
 鳩茄子を掴んだ手を振りながら坂道を下っていくカタリナを見送り、ヤコブは小さく息をついた。
 数年前から、カタリナはどこかおかしい。自分の師匠が死んでしまったことを忘れているようなのだ。ヤコブよりも年下なのだから、まだ惚けるような年齢では決してないのに。
「……寂しいのかなぁ」
 村外れで一人暮らす彼女のことを、ヤコブも時々は考える。もっと村の真ん中に近い場所で、人の気配のある場所で暮らしたほうが彼女にとっては良いのではないか。あるいは師匠の墓に連れて行って、目を覚まさせてやるべきなのか。だがそれはカタリナにとって残酷なことではないのか。
「……まあ、考えても仕方ないかな」
 考え込みすぎると、美味しい鳩茄子が収穫できない。もちろん本来的に茄子だから美味しさと生きの良さが大事なのに、この作業に余計な悩みを持ち込むのはよくない。
 再びヤコブは畑にかがみこんだ。そのカタリナの変調が意味することを、深くは考えないままに。

 時間は少し遡って昼下がり。
「痛っ」
 工房でパン生地を練りながら、オットーは眉を顰めた。ぶつけたわけでも何でもない額に、不意に痛みが走ったからだ。一応手で触れてみるが、やはり何の傷もない。いつものあの痛み。
「……気をつけてって言ってるのにな、もう」
 それは、恐らくトーマスが何かに頭をぶつけた痛みなのだった。
 かつて、オットーがパン作りの修行のために、トーマスが木彫りの技術の修行のために、それぞれ街に出ていた頃のこと。街に出て二~三年した頃の話だったか、そこでもやはり人狼騒ぎが起こり、当時十四歳だったオットーと十六歳だったトーマスは人狼の姿を直接に目撃した証人となっていた。その時に、目撃しただけでなく感染しているのではないかと疑われ、再洗礼の後に聖別されたナイフで清めの証を刻印されたのだ。
 その当時は何ともなかったのに、村に戻ってからしばらくして、二人の間には不思議な共感が起こるようになっていた。互いが怪我をすれば、僅かだが痛みが通じる。互いに何か異変があれば、何となくだがそれと分かる。
 ――オットー、俺たちならもしもお互いが人狼になるようなことがあれば必ずそれと分かるだろう。この刻印のお陰で俺たちは、お互いを人間と証明できる、そのはずだ。
 共感現象に気づいたとき、トーマスはそう言ったものだった。確かに二人がその後三年して、何故か二人揃って破門の憂き目に遭って村に戻ったとき、人狼の災いは村のすぐ近くでも起きていた。襲われたのは村々を行き来していた羊飼いの女性、カタリナの師匠だったという。それを知った後なのだから、そうした発想になるのは当たり前で、それに反対するつもりはオットーにもない、のだ、が。
(……少しは気をつけてくれないと困るよ、トーマス)
 ぼやきたくなる気持ちも察して欲しいのが、人情だ。眉間など鍛えられる部位でもないが、多分トーマスより自分の方が痛みには弱い。
 今度二人きりのときには思いっきり文句を言ってやろうと思って、そういえば今日は酒場への招集が掛かっていたと思い出した。近くの村々でまた、人狼の噂が立っているのだそうだ。
 これまで村の誰にも秘めてきた、この能力が役立つ日が来るのだろうか。それはとても複雑な感慨だった。
 オットーは形を整えたパン種に、今日まで長らくの間使っていなかった秘密のまじないをかけて、崩れないよう慎重に窯に入れる。少し手の甲が窯に触れて、びくりとした。

「熱っ」
 不意に右手の甲に走った灼熱感に斧を取り落としそうになり、トーマスは慌てて左手で斧を掴み止めた。たまたま斧を抜き取ろうとする動作の途中だったからいいようなものの、落としたらただではすまない。落としたことは、一度たりとてないが。
「……オットーの奴。気をつけろと言ってるだろうに」
 まあ、昔から失敗が多くてよく師匠に叱られてる奴だったから仕方がないか、とトーマスは一人で笑った。どうせこんな森の中で聞く者はいないので、あまり配慮はしたことがない。せいぜい驚いて小鳥が数羽飛び立つ程度だ。
 トーマスは知らない。自分が師に排斥されたのは、荒削りな中にも輝くその才能を妬まれたからだとは。だが彼にとってそれは何の支障もないことだった。最低限生きるためのものを除けば、彼にとって技術や知識は無用の長物だったのだ。こうして森の中で木を切り、村の皆に使ってもらうことで十分に生活が成り立つことは、先代の木こりを見ていれば良くわかっていた。木彫りは確かにそれなりには面白かったが、それでもそれが自分の生業ではないと、トーマス自身が確信していたのだ。
 そしてまた、二つ年下の友人が破門された理由が実は失敗のせいではなく、傍目にも明らかなほどの特異な才能を、彼が自分のためだけに使おうとしたことであるとも、トーマスは知らない。友人の事情を詮索するなど、彼の性格ではそもそも思いつきもしなかったのだ。だからトーマスはオットーが単なるうっかりなのだと、未だに信じてやまない。それにしても、トーマス自身にとって時々の灼熱感など大したことではないから構わないのだが、オットーの柔らかく弱い皮膚の方は火傷していないのだろうか、とはたまに気になることもある。
「……ん?」
 珍しく考えごとをしているうち、不意に肩の辺りに何かの気配を感じて、トーマスは振り返る。小柄な黄色い可愛らしい鳩茄子が、トーマスに振り向いてもらおうと一生懸命つついていたらしかった。いくら鳩に似ているといっても硬い嘴はないから、さっぱり痛くなくて気づかなかったのだ。
 へたの部分に結び付けられた手紙をとり、読んだ証拠にと鳩茄子を村のほうに向かって放してやる。手紙を開くと、そこにはパメラの几帳面な字で、【隣村から人狼の噂あり。本日夜、酒場に集合のこと】と記されていた。
「人狼騒ぎ……か。わっはっは、そんなもの俺様に任せておけばいいに決まっている」
 トーマスは手紙を畳んで近くの切り株に置いた後、斧を握りなおして、既にかなり深く切り込みの入った木に最後の一撃を打ち込んだ。
 木屑が額に飛んで流石に一瞬目を閉じたが、計算した通りの方向に木が倒れて行くのを見て、トーマスは微笑んで汗を拭った。

「って、痛っ。……いい加減にしてよ、もう!」
 聞く者もいない工房の中で小声でぼやきながら、オットーは先に窯に入れておいた、焼きあがったパンを取り出す。自分とそっくり同じ姿をしたパン。もちろん焼き色はついているのだが……先ほど窯に入れたものと同じくまじないをかけて作られたこれは、並みのパンとは違う出来になっているはずだった。
「――《起きろ》」
 焼く前に掛けたものと呼応するまじないを唱えると、パンでできたオットーが立ち上がり、まるで彼自身がするのとそっくりな仕草で近くに置かれた帽子を取って被ってみせた。姿までも徐々に適応して、次第にパンとは分からなくなっていく。数年ぶりに見る、動く自分の作品の姿に、オットーは思わず手を叩いた。
「すごいすごい。良かった、腕は鈍ってないみたいだ」
 だったら、こっちも。
 窯の中を想像しながらオットーは微笑む。人狼などまったく気にならないくらい、いい気分だった。

 夕刻。
 森の奥で泉のほとりに腰掛け、老人モーリッツは大きくひとつ溜息をついた。今日昼間訪れた教会の神父は、本当に相変わらずどうしようもない破戒僧としか、モーリッツには見えなかったのだ。
「人狼より人間が怖い……それは事実じゃが」
 彼の言葉を思い返す。
 上滑りな神学理論、果たして今時はあれで許されてしまうものなのだろうか。どうにも彼が知る古き神の徒とはかけ離れているように思う。
 言っていることだけを見れば、確かに、立派な神父としか言えないのだが。何とも彼にとっては鼻につく存在であることは確かだった。
「……人狼の噂も起こったようじゃしのう」
 もう一度モーリッツは溜息をつく。
 古き人狼の血は、本来食人など必要としなかった。禁じられていた人との交配によって血が薄れ、それによって他から『力』を補う必要が生じたのだ。ザンクトルフト邦の人間はほとんど全員、人狼の血を受けた人々だから、人を喰うことで近年の人狼は力を補い生きていくことになる。その狩りのために人狼は群れを成す必要があり、その必要に応じて新しい人狼たちは『囁き』と、そして《歌》という能力を手に入れたのだ。
 再びこの地は、惨劇に塗れることになるだろう。かつて古き人狼が生き、新しき人狼と血みどろの争いを演じたこの地は。
 既に古き純血の人狼が歴史の表舞台から姿を消して数百年が経つ。――モーリッツはその最後のひとりだった。惨劇の時代から生き、ひたすら沈黙して身を隠し、そして後世にいくつかの能力と伝承を伝える者。沈黙の村と名をつけたのも、彼自身だった。
 泉に映る顔には皺が深い。恐らくこの度の戦いで、彼は命を終えるだろう。
 それもまた――流石に頃合であるに違いない。目を閉じて長い長い年月に思いを馳せる。と、
「……おじいさん?」
 不意打ちで声をかけられて、モーリッツは水中に落ちそうになった。危ういところで踏みとどまり振り向くと、つい先ほどまで脳裏に思い浮かべていた気に食わない神父が立っている。
「なんじゃ、いきなり」
「いえ、もう皆さん酒場に集まっておられますから。おじいさん待ちのようですよ」
「……。そうか、すまんかったのう」
 モーリッツはすばやく立ち上がり、ジムゾンの横をすり抜けた。特にリアクションもなく普通に後から付いてくるのはたぶん、敬老精神の欠乏とかではなく、性格なのだろう。神学に熱心でないのもまあ、性格なのかもしれない。
(……今日のところは許しておいてやるわい)
 先に立って森の中の獣道をずんずんと歩きながら、モーリッツは軽く鼻を鳴らした。

 酒場に人が集う。――村の真ん中に人と狼たちが集まって、輪を作る。
 狼たちは声なき声で《歌》を歌う。村が見えない壁で閉ざされていく。
 
 ――――――血の色をした、宴がはじまる。
スポンサーサイト






この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する







この記事に対するトラックバック
...トラックバックURL...
http://f137werewolf.blog28.fc2.com/tb.php/18-51a8b512
プロフィール

村人さん

Author:村人さん
人狼BBSF国、F137村の有志数人。
ことごとく多弁。

(*'п')『よそ様のコメントも大歓迎だヨ! どんどんお願いするネ!』

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
このブログをリンクに追加する



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。